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杵屋正人さん(三味線・長唄奏者)

  • 2013.09.06

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●日本の音色に魅せられて●

 

芦屋~夙川~苦楽園--大阪や神戸に比べればそれぞれの街はこじんまりしているけれど、それでもやはり、人口はかなりのもの。ご近所づきあいだってそれほど繁くもなく、「隣は何をする人ぞ」という方は多いのでは? この街には、いったいどんな人が暮らしているんだろう?!

 

そんなことを考えていたある日、Palashioに一通のメールが届いた。差出人は、京都南座や大阪松竹座での歌舞伎公演などにも出演されている芦屋在住の長唄・三味線奏者、杵屋正人さん。杵屋さんは、Palashioに関心を持ってメールを送って下さったのだ。

 

このところ日本文化への関心が高まっているとはいえ、和楽器はまだまだ身近ではない。そんな和楽器、それも三味線をプロとして演奏している方にお目にかかれるなんて、なかなかないチャンス!? ということで、Palashio、馳せ参じて参りました。

 

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●三味線ってどんな楽器?

 

 

ところは芦屋。とあるモダンなマンションの一角に、長唄・三味線奏者・杵屋正人さんのお稽古場をかねたご自宅がありました。出迎えて下さったのは、紺地のきものをさらりと着こなした杵屋さん。なにしろこちらはまったくの素人。初歩の初歩からお話を伺いました。

 

--まずは三味線を見せていただけませんか?

 

これが私が使っている三味線です。三味線、とひとくちにいっても色々と種類があります。大きく分けると、細棹、中棹、太棹の三種類で、私が使っているのは細棹です。長唄や小唄は細棹を、人形浄瑠璃の舞台で見るような義太夫には太棹を使います。ちなみに、時代劇などで芸者さんが弾いているのも細棹ですね。

 

三味線を使う音楽には、地唄、小唄、長唄、義太夫など色々とあります。曲の長さや演奏法によって分かれるのですが、洋楽の中でもポップスやロックなど色々あって、それぞれの区別ははっきりしていないところがあるでしょう? あれと同じで、厳密には区別しにくいものもあります。
大雑把に言えば、義太夫は人形浄瑠璃などでストーリーを語るものですから、語りがメインで唄がサブといったところです。長唄は唄が主で、メロディがはっきりしていますから、初心者でもスムーズに入りやすいのではないかと思います。

 

 

--長唄って、どんなものなんですか?

 

歌舞伎の中で舞台から音楽が流れてくるでしょう? あれはだいたい長唄です。さきほどちょうど「勧進帳」の出囃子を練習していました。長唄とは何かといっても、地唄や浄瑠璃の要素を取り込んで発展してきたものですから、ひとことで定義するのは難しいんですよ。

 

長唄は一番(一曲)が平均で12~3分ですが、短いものなら5~6分、長いものは30分を越すものまであります。覚えるのは大変ですよ(笑)。

 

 

--なぜ三味線奏者になられたんですか?

 

祖父の代から3代続く長唄の家系なんですよ。記憶はないんですが、稽古を始めたのは、6歳の6月でした。昔から6月6日にお稽古を始めると上達するって言いますよね。

 

子供の頃は、自分の意志もなにもなくて、ただ言われるままにやっていたという感じでしょうか。でも、中学生の頃には「もうやめる!」なんて言った事もありますよ(笑)。家での稽古に加えて、月4回は外の稽古に行ってましたから、遊ぶ時間がほしくて。

 

だいたい、その頃は周りの友人たちにも、三味線をやっているなんて言いませんでした。今でこそ「渋いね」なんて言ってもらうこともありますが、中高生の頃、周りで三味線をやってる友達などいませんし。「かっこいい」ことだという感じではありませんでしたからね。

 

でも、やめることもなく続けていて、高校生ぐらいから、休みの日に踊りの会などにちょこちょこ出演するようになりました。やはり、父も祖父も長唄の世界におりましたから、自然とこの道に入って続けてきた、という気がします。むしろ、「サラリーマンになる」と言い出すほうが、私にとってはかなりの決断だと(笑)。

 

 

--お稽古は厳しかったのでしょうか?

 

もちろん、演奏や礼儀については厳しいこともありました。趣味でやる分には、厳しく叱られるなんてことはないのですが、仕事としてやっていくには、やはり大変なこともたくさんありますよ。公演が重なってくると曲を覚えるのが大変です。時には20番ほどをすべて暗譜しなくてはなりませんし、これがまた一番一番が長い!(笑)

 

長唄の世界にも色々と流派があり、杵屋(杵勝)というのも屋号のひとつです。この杵屋は長唄の世界でも大きいほうの流派なんですが、歌舞伎などの公演では、ほかの流派の人とも一緒に演奏するんです。そうすると、同じ曲でもちょこちょこ手が違ったりするわけなんですよ。タテ(主席奏者)にあわせますから、その練習もなかなかに大変です。

 

 

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●音の魅力、かえがたい喜び。

 

 

うちのお稽古では唄も三味線もどちらも教えていますが、舞台では唄と三味線のどちらかを専門にするんですね。私は三味線の音色が好きだったので、三味線を専門に選びました。

 

私にとって三味線は、あまりにもずっと身近にあったものなので、あってあたりまえになっているし、どこが好きなのかと考えることもないぐらいです(笑)。でも、改めてどこが好きなのかと言われると、やはり音が好きなんですね。それにやはり、いい演奏ができたときの満足感はなにものにも変えがたいんですよ。

 

--と、ここで三味線の音色を聞かせていただきました。「では。」と、きちんと正座してすっと背筋を伸ばした杵屋さんが、ぽろりんと三味線を爪弾き始めると、一瞬で空気が透き通ります。瞬く間に異次元に連れて行かれるような魅力的な音色に、しばし時を忘れて聞き惚れ…、「とまあ、こんなところです。」という言葉で、ようやく我に返りました。杵屋さん…、どれぐらいお稽古すれば、少しぐらい弾けるようになるんでしょうか…。

 

短い曲ならば、半年も練習すれば弾けるようになりますよ。
長唄の楽譜は五線譜にも書けるんですが、通常はこんな長唄の楽譜を使います。

 

 

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ぜんぜんわかりませんか?(笑)馴れると簡単なんですよ。三本の弦に対応しているだけですから。最初のうちは、この楽譜の読み方や三味線の持ち方から少しずつ練習します。

 

三味線って、昔はどこの家にもあった楽器です。今でこそ見たこともないという方も多いんでしょうが…。演奏するのに力がいるような楽器ではないので、女性でも、力の弱い方でも弾けるんですよ。

 

うちにお稽古に来ている方の中には、初心者もたくさんいらっしゃいます。年齢層も、年配の方から若い方まで幅広く。なかなか馴染みのない楽器かもしれませんが、一度手にとって、音色を聞いてみていただければと思います。

 

 

--終始、柔和な面持ちの杵屋さんだったが、正座して三味線を持った時には、すっと表情が変わった。背筋を伸ばし、凛乎として楽器に向かうその様子は、日本の伝統文化や思想にそのままつながる姿勢。そして感情を直に突き動かすような音色もまた、日本文化の側面かもしれないな……そんなことを考える、ちょっと不思議な時間だった。

 

奥が深~い日本の文化、あなたもちょっとのぞいてみてはいかが?

 

 


 

 

 

杵屋正人さんのウェブサイト
http://www.hpmix.com/home/masatokineya/

お稽古は月2~4回のコース
三味線は貸し出しOK

 

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